まず、女性から「この人、痴漢!」と申告されても、身に覚えがなければ、駅員に促されるままに事務室へ行ってはならない。移動せずに駅のホーム上で話し合うようにすべきだと、著者は指摘している。事務室に行った時点で、女性による現行犯逮捕として扱われ、その後、逮捕状なしで警察署へ連行される余地を与えてしまうからである。

 ほかにも、取り調べの前に、忘れず「弁護人を呼んでください」と警官に求めることも重要だ。万が一、その求めに応じない警察官がいれば、被疑者の弁護人依頼権を侵害する憲法違反を犯しているわけだから、後で責任問題に発展する。よって、被疑者の申し出があれば、警察官は必ず弁護士を呼ぶことになっている。

 もし、知り合いの弁護士がいないか、いても連絡先がわからなければ「当番弁護士を呼んでください」と告げてもいい。待機している弁護士が、弁護士会経由で連絡を受け、初回は無料で駆けつけてくれる。
供述調書に署名しない勇気も必要

 また、質問されたことに対し、記憶が不確かなら黙秘すること、取り調べで作成された供述調書はよく読んで、少しでも納得できなければ署名しないこと、などを著者は読者にアドバイスしている。

 供述調書に「署名しない勇気」は特に重要だと、刑事裁判の法廷傍聴をライフワークにしている評者も同様に考える。供述の任意性や、調書の内容の信用性を争っている裁判は、ほぼ毎日のように目にするからだ。