日本人は虫の音を左脳で聞くために、どんな虫が鳴いているかを聞き分けることができるが、右脳で聞く他の民族には雑音のようにしか聞こえない──。80年代、こんな脳生理学の研究が、自然をいとおしむ日本文化の科学的分析として一世を風靡(ふうび)し、戦後見失われがちだった民族アイデンティティーの再認識にもつながった。しかし現在、この研究を支持する脳科学者はほとんどいない。最新の脳科学は、日本人の何をみているのだろう。(小島新一)